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第12章「日本株急騰(1)」

<これまでのあらすじ>

第一部
独立して会社を立ち上げた仲原は、
日経平均オプション取引が主要業務である。
ある時、ヘッジファンド会社に勤める友人の藤木から、
日経オプションのカリスマブロガーの調査を依頼された。
調査の依頼元は、日本の財政破綻を狙う国際的なハゲタカファンドで、
以後、仲原の周囲には、そのハゲタカファンドの影がちらつくようになる。

第二部
仲原の旧知の大館は、保険数学(アクチャリー)が仕事だったが、
相場の世界にのめりこみ、今は日経平均オプションで生活している。
旅行・ギャンブル好きで、毎月のようにカジノのある国に行く。
仲原の代理で訪れた中国では、政府系投資家と出会う機会があった。
それが、中国の世界戦略に触れるきっかけとなったのだが...

第三部
仲原や大館より、大学時代1学年上の石黒は、
4留した後に中小メーカーに入ったが、幻滅して直ぐにやめてしまった。
台北近郊の九分に住み、店舗経営の傍らでトレードで生計を立てている。
中国事情と金融に詳しい石黒には、様々な人間が接触してくる。

第四部は、再び仲原を中心に展開する。

第四部

第12章「日本株急騰(1)」

「結局は、上値は重いということか。」
仲原は、時計が十二時を回るのを見て、PCの電源を切った。
2/3の米1月分雇用統計発表には、世界中が注目していた。
失業率は8.3%、新規就業者数は25万人を超えている。
市場は直ぐに上昇、NYダウ先物は一気に、+100ドルを超えた。
しかし、日経平均は8900円を超えるのがやっとで、
9000円には届きそうもない。
為替もドル円は50銭程度円安に振れたが、76円後半までだった。
日経平均は、夏以降8000円台の攻防が続いていた。
ギリシャに続いてアイルランド、ポルトガルの信用不安が増大したが、
市場は更にイタリアやスペインまで織り込もうとしていた。
「これは、ユーロはいずれ崩壊するかもしれないな...」
市場関係者ならば、誰もそう感じたことだろう。
かつてのロシア危機やアジア通貨急落時にも、
世界中の株式市場が急落した。
予想以上の事態に対しては、投資家や、
金融機関いずれも問答無用で、キャッシュ化を進める。
そこには道理等なく、PBRが低いとの理由で買い向かったりしない。
ましてや、チャートがどうだとかのテクニカルのサポートも効かない。
買い向かうのは資金に余裕のある個人や長期投資の株式ファンド位だ。
それでも、底値で買うのは無理というもので、
どんなプロでも、底値で買って高値で売れはしない。

週明けに、藤木から電話があった。
「どうでっか。日本株の売買代金も増えてきたんじゃないですか。」
「確かに、先月8500円を超えてから、雰囲気は変わりましたね。」
「私のやってるFXでも、クロス円がようやく円安に進み始めました。」
「藤木さんも、日本人には人気がある豪ドル派ですか。」
「まあ、そうですわ。スワップポイントも大きいし、
 何しろ景気に敏感な通貨ですからね。」
「世界的な資源国で、農業国でもある豪ドルは、
 簡単には暴落しようがないですね。」
「そうでっせ。何しろ中国が火力発電で石炭をぎょうさん買いますから。
 景気が持ち直せば、リーマン前の100円に乗せるとちゃいますか。」
「可能性はありますね。欧州や中東で何も起こらなければ、ですが。
 豪ドルが100円つけるようなら、株は10000円に乗せてきますよ。」
「それが良い。株が上がらんと、世の中も明るくはならんでしょう。」
「まあ、あくまで何も悪いことが起きないとの前提ですけどね。」
「そういえば、オプションはどないでっか。
 最近は個人も徐々に戻ってきたと新聞にも出てましたが。」
「売り枠も復活しましたからね。M社やR社のように、
 枚数をクルクル変えるところもありますが。」
「地震後の暴落で、客と裁判になったところもありましたな。」

「M社のロスカット口座ですか。」
「あれは、プロ連中からも評判良くないようですな。」
「夜間の板の薄い場面で、切らされる可能性ありますからね。」
「証券の立替金で、大きかったのはH社でしたな。何でだったんですか。」
「一番の原因は、システムでしょうね。寄付きの成行きだけとか、
 証拠金を急激に上げたのも、問題じゃないかと思いますね。
 顧客も、掛け目を10倍に上げられたら切るしかない。」
「何や、カリスマと言われた社員もいたそうですな。」
「売り推奨で有名な情報屋もいましたが、ネットでは叩かれたようですね。
 個人的にはH社のシステム不具合が、一番の要因と思いますが。」
「最近思うのですが、ネット上で投資顧問に近いのも多いでっせ。」
「法的にはグレーのものも多そうですね。契約内容次第では、
 限り無くクロに近いケースもあるでしょう。」
「証券出身でも、金商法に疎いのも多いからなあ。」
「まあ、条文を読めば大体分かるんですけどね。」
「聞いた話だと、情報サイトにはブラック系も出てきてるようですな。」
「彼らも、資金源になると思っているんじゃないですか。
 でもブログも注意深く読めば、本当の専門家かどうか分かるでしょう。」
「何かの弾みで、懲戒免職食らったやつが、
 ブラック系で運用するパターンもありますな。何人か知ってますよ。」

「そういった連中も、株や土地が上がらないと、厳しいんでしょうね。」
「日銀が諸悪の根源と言う、外人連中は多いでっせ。
 欧米が何十兆、何百兆と国債やMBSまで買うてるのに、
 日銀は大した額じゃないですからな。」
「まあ、円高に向かったのも当然でしょうね。
 大量に印刷されたドルとユーロが売られるのは、
 子供でも分かる理屈ですよ。」
「FRBや日銀は、動きますかな。」
「動かないでしょう。QE3は時期尚早だし、日銀が前倒しで動くと、
 欧米が動いた後で、もう一度何かやるしかないですし。
 当面は、欧米の中央銀行を見てるだけでしょう。」
事実、2/14の相場は8900円付近まで押していた。
全くのところ、相場関係者はノーマークだったと言って良い。
1時前になって、10兆円の国債買取額増額が発表されても、
為替は円安に反応したが、株は先物が9000円に乗せただけで、
大きく反応した訳でもなかった。
しかし、引けにかけて徐々に買われ始めた。
翌日には9100円台に達し、9150円を超えると、
買戻しと思われる大口買いが殺到した。典型的なショートカバーだ。
一時9300円にまで達し、callも急騰している。
「ファンド筋だな...」
ヘッジファンドでは、グローバルマクロとロングショートの規模が大きい。
「日本株を叩き売ってた連中が、買い戻し始めたのか...」
となれば、少なくとも5-6千枚の規模だろう。


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by nkmrnkmr | 2012-02-24 10:28 | オプション小説
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