第3章「マネー狂乱(3)」
5/20の週、日経平均は16000円近くに達していた。 依然として勢いが止まらない。 「ここまで、一気に伸びてくるとは......」 経験者なら誰でもそう思っていたが、止まらないものは仕方がない。 しかし、値上がりするのは、Fリテイリング等の構成比上位銘柄や、 コア銘柄だけであり、多数の銘柄は下落に転じていた。 ピークに近い兆候が、既に出始めていた。 今月から”裁定系ポジション”(期近SPと期先SPの合成ポジション)に 取り組んできたのだが、16000円付近で膠着されると、 あまり良くないシナリオであった。 「仕方がない......」 5枚ずつで組んだポジションを、高値で落とす羽目になった。 「少し、様子を見るか......」ドル円は103円台に入っており、 今後の米国指標次第では、105円まで達しそうな雰囲気もある。 日経平均の今期予想EPSは900円程度だが、 トヨタなど為替の想定レートは、ドル円で90円である。 105円になれば営業利益は大きく上昇する。 「EPSは1000円を超える可能性も出てきたか......」となれば、 PER15倍として、15000円は割高ともいえない。 「しかし、スピードが速すぎる......」 短期筋は、”ユニクロ・トレード”で指数を吊り上げ、 大きな利益を狙っているようだ。ヘッジファンドの5月中間決算で、 最後のパフォーマンスを狙っているのかも知れない。 更に、先物のプログラム・トレードが動きを加速させている。 中小のNC証券が代表だが、個人でも複数のプログラムから選択でき、 日経ラージを自動的に売買してくれる。 「いつか、調整が来るはずだが......」 call側をデルタショートに振ると、やられる展開が続いていた。 調整に備えてPUT側を見ても、バック系は今ひとつ食指が動かない。 これまで頻繁に作った短距離バックも、カーブの形状からは、 外側が高めで、タイミングは良くなさそうだった。 「仕方がない。6Pクズか......」ゼロコストに近い形で、 10750-9500といったレシオを何組も作っていった。 そして運命の5/23が来た。 前夜は先物が16000円に乗ったが反落。 しかし、円安トレンドは崩れておらず、この日も相場は強そうだった。 再び15900円台に上昇した時、誰もが16000円乗せを予想しただろう。 変調のきっかけは、HSBC発表の中国経済指標。 これが予想より悪い数値で、一部の短期筋が売りに回った。 その後の急落は誰もが想像すらしていない大規模なものだった。 15500円をあっさりと抜けた後は、まさかの15000円割れ。 14:30近くには、サーキットブレーカーが発動された。 再開後戻るかに見えたが、引けにかけ売りが殺到、ザラ場引けとなった。 そして、ESが始まると再び売り回転が効き始めた。 売りが売りを呼ぶ展開で、まさかの14000円割れ。 前夜の16000円から、わずか1日以内で2000円もの暴落となった。 「何もイベントは起こっていないが......」 海外発の売り材料ならまだしも、需給の振れによる暴落である。 中国・香港にしても、株価はそれほど下がっていなかった。 「アルゴリズムのせいだよ......」 証券マン出身の友人の仲原が言った。 「証拠金が跳ね上がるんじゃないかな......」と尋ねると、 「下落幅は、PSRの2倍に届かなかったな。 これだと、臨時措置は発動されないよ」 「なるほど、そうか......」 しかし、ネット証券大手のS社は早々に、 SPAN掛け目を100%から200%に引き上げ、 OP売り枠を50枚から30枚に縮小した。 他社でも、見直しが相次いでいる。 5/20-24のデータを使うと、6/3の週からPSRは960円、 VSは16%程度となりそうだ。 「OPは買戻しが先行か......」 証拠金が跳ね上がれば、callもputも買い戻しや、 証拠金対策のクズ買いが先行する。 こうなると、理屈ではなく需給が優先する。 6月限は大外は、SQ近くまで高止まりだろう。 「311大地震後の動きと同じだな......」仲原がつぶやいた。 「あの時は凄まじかったねえ......」 PSRの跳ね上がりは仕方がないとして、VS(ボイラティリティ・スキャン)が リーマンショック時以上の30%まで跳ね上がってしまった。 外側callを1枚売って100万円近くかかれば、そう簡単に売れない。 それ以上に凄まじかったのは、追証による破綻の続出、 ひいてはネット証券が軒並み20-30億円の立替金を計上した。 お金の流れとしては、 ①顧客-証券会社 ②証券会社-取引所 の2つの流れがあり、②は顧客のポジションの損益がどうなろうが、 証券会社-取引所の間で必ず行われる。 311後は①で取りっぱぐれが生じたため、差額分は立替金として、 証券会社が損失計上する羽目になった。 OP売りを推奨していたH証券は廃業、 リスクの高い専用口座を設けていたM証券も多額の立替金を計上した。 この時、仲原のもとに、某ネット証券のトップから電話がかかったようだ。 「ああ、仲原君。OP市場が凄いことになってね......」 「各社、規制を出してきましたね」 「やはり、規制は必要かな......」 「仕方ないでしょう......」 この時、どのネット証券も掛け目を引き上げ、売り枠を縮小していった。 中には相当長い間、売り枠ゼロという証券会社まで存在した。 今回、16000円から14000円割れまで2000円以上下落したとはいえ、 PSRは960円でVSも16%程度に収まった。 しかも、311や2010.5のギリシャショックと違い、 あくまで日本株の需給が原因に過ぎない。 「311ほどでもないな......」 日銀のETF、REIT買いへの期待もある。 日銀の動きも調べてみた。(以下は、4月以降のETF買い) 4/15:216億円 4/16:216億円 4/26:216億円 5/16:188億円 5/23:188億円 5/27:188億円 相変わらずの杓子定規である。 「もっと、メリハリ付けても良さそうだが......」 政府と同様、日銀のレジーム・チェンジも期待されているが、 ETF買いについては、それほど変わっていないようだ。 買取パターンが見破られてくると、必ず参加者は隙を突いてくる。 「これじゃ、調整は長引く可能性もありそうだな......」 ため息が出た。 <免責に関して> 当掲載内容には十分注意を払っておりますが、 内容の誤り及び情報に基づいて被ったいかなるトラブル、 損失、損害については、当方は一切の責任を負いません。 ご利用は、自己の責任において行われるものとし、 当方は一切の責任を負いません。 なお、掲載した情報は予告なく変更、中断、中止することがあります。 予めご了承ください。 にほんブログ村
by nkmrnkmr
| 2013-05-29 07:02
| オプション小説
|
カレンダー
カテゴリ
以前の記事
2015年 11月 2015年 10月 2015年 09月 2015年 08月 2015年 07月 2015年 06月 2015年 05月 2015年 04月 2015年 03月 2015年 02月 2015年 01月 2014年 12月 2014年 11月 2014年 10月 2014年 09月 2014年 08月 2014年 07月 2014年 06月 2014年 05月 2014年 04月 2014年 03月 2014年 02月 2014年 01月 2013年 12月 2013年 11月 2013年 10月 2013年 09月 2013年 08月 2013年 07月 2013年 06月 2013年 05月 2013年 04月 2013年 03月 2013年 02月 2013年 01月 2012年 12月 2012年 11月 2012年 10月 2012年 09月 2012年 08月 2012年 07月 2012年 06月 2012年 05月 2012年 04月 2012年 03月 2012年 02月 2012年 01月 2011年 12月 2011年 11月 2011年 10月 2011年 09月 2011年 08月 2011年 07月 2011年 06月 2011年 05月 2011年 04月 2011年 03月 2011年 02月 検索
その他のジャンル
ブログパーツ
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||