派遣トレーダー2015(1)

2015年になった。
俺は配属が変わり、岩手県に移っていた。
今年の年末は特に寒い。
地球温暖化と言われているが、この寒さは一体何なのだろう。
周囲の連中は
「年をとれば、北海道の安い土地でも買って住めばいいや......」
とか暢気なことを言ってるが、
北海道では死人も出るほどの寒波だ。
年末は新しく移った安アパートで、
どこにも出かけないで相場を見てすごした。
思えば1年前、欧州系ファンドが11月の安値から買い上がり、
まさかの2000円高で16000円半ば近くまで上昇した。
日本の単純な証券会社の連中は、
「すわ、3月末は18000円だ!」とか絶叫したが、
肝心の外人勢は個人のNISA買いに売りを浴びせ、
5月までは14000円台でうろうろしていた。
「日本の証券会社も、外人に振り回されてるだけじゃねえか」
と思わずにはいられない。
確固とした相場観も持たずに、上がればキャンキャンわめき、
下がればシーンと沈黙する。
2015年の相場を考えると、「米利上げ」「ECB量的緩和」
「日銀追加緩和」「中東、ロシア、中国情勢」といった材料が目白押しだ。
イケイケの専門家M氏や強気のD証券のいうように、
22000円を大きく超えることがあるのか?
日経平均の今期予想EPSは現時点では1100円で、
輸出企業の業績上振れを見込んでも1150円か。
来期の業績予想は、好調な米国経済の恩恵があるとしても、
予想EPSで1200~1300円か。
PERが13~15とすると、日経平均は15600~19500円となる。

しかし、専門家の予想は高値20000円以上と言う声が大勢だ。
「本気で言ってんのか」
以前の作業場で一緒だった田村にメールしてみた。
この男は証券市場に恐ろしく詳しい。
株だけでなくデリバティブや為替、国際情勢にも通じている。
こんな作業をやっている男ではないのだが、
個人には様々な事情もあるのだろう。
「前にも話したが、証券会社には顧客がついているからな。
 客に日本株や外貨を勧めてる以上、株高・円高になりますとは、
 口が裂けても言えねえよ」
との返事が返ってきた。
「まあ、商売である以上、調子が良いんだろうな」
かつて日経のサイトで、相場観を語るコーナーがあった。
リーマンショックが起こる前、
同社が資金繰り懸念から株価が下げ続けている時も、
「年末は16000円回復!」といった現実離れした暢気なコメントもあった。
リーマンショックが起きた時も、
「先進国の利下げで、株価は年末に14000円回復!」
とのコメントもあった。
この時も強気派が7-8割を占めていたと記憶するが、
中には「終わりの始まりか......」
と警戒する向きも少数ながらいた。
結果は少数派の通りで、株価は11000円から7000円まで急落した。
田村に言わせると、
「相場を語る連中で、まともな者はせいぜい1割だからな」
ということらしい。
証券会社のストラテジストにもなると、
マスコミでもっともらしく相場を語る必要がある。
鋭い相場観は部下や部内の識者に任せ、
いかに上手く語れるかが重要になってくる。
要は、口が回らないと務まらないようだ。

今、俺が移ったのは北上川の下流から少し離れた作業場だ。
この川も311大震災の時は巨大な津波が襲い、多くの人が亡くなった。
海岸線近くにいて30m以上の津波が来たらひとたまりもない。
言い伝えを覚えている人ならば、
「大地震があったら、直ぐに近くの高台に逃げろ!」
と逃げて助かったが、
「なあに、大丈夫だろう」とたかをくくった人もいたに違いない。
悲劇は多かった。中でも河口から5km程度内陸の
大川小学校の悲劇がその代表だろう。
地震後校庭に全校生徒を集めたまでは良かったが、
「どうしよう、こうしよう......」
生徒や保護者の不安をよそに先生連中の意見がまとまらず、
大勢の生徒が亡くなった。唯一生き残った先生は、
市の教育委員会が面会謝絶で誰にも会わさず、
今も亡くなった生徒の親達との確執が続く。
直ぐに裏山に逃げれば、生徒も先生も助かったのだろうが、
「道もない山で怪我をさせたら......」
「津波はここまで来ないだろう......」
との根拠のない希望的観測が多かったはずだ。
「日本人は、根拠のない楽観論が好きだからな」
これも田村が口にする言葉だ。
「全てのシナリオを冷徹に計算して準備するより、
 希望的観測にすがって皆で安心したい民族さ」
異なる意見を口にする異端者は、確実に嫌われる。
それでも明治維新、日清戦争・日露戦争までは上手くいった。
しかし日中戦争、太平洋戦争、バブル崩壊、
近年の輸出企業の世界市場での衰退、
いずれも冷徹な計算を軽視し、
「なんとかなるさ......」
「国が何とかしてくれるだろう......」
との安易な楽観論に乗ったからではないか。

仕事始めは1月5日からだった。
眠い目をこすりながら8時に職場に着いた。
知り合いは少ない。前の作業場の連中とは全て別れて、
年末から挨拶程度はする仲間ができた位だ。
マイクロバスに乗り海岸近くの現場に向かう。
津波の傷跡も残るが、海岸近くにも建物が随分建てられた。
「このへんは、30mの津波が来たんだよ」
立石という、地元出身の男がいった。
「俺の働いていた工場もこの近くだったんだが、
 根こそぎ飲み込まれちまった」
一時的に仮設住宅に避難し、まだそこに留まっているらしい。
「でもよ、復興需要とかで、また働けるのが幸いだった......」
三陸の海岸線は、どこもかしこも堤防作りや住宅建設で、
業者は人手不足で悲鳴を上げているらしい。
恐らくは、そのほとんどが税金だろう。
政府が国債を発行し、今では日銀が買い上げる構図だ。
国債の対価として市中にまかれたお札は、
回りまわって株や不動産、外貨に向かう。
お陰で株価は18000円に届いたしドル円も120円に達した。
立石のように仕事で恩恵を受けた者も多い。
「おっさんには、自民党で良かったな」
声をかけてみた。
「どっちでもいいよ。けど面倒見は前よりいいんじゃねえか」
「物価が上がったことがちょっとねえ......」
「そうさ。色んなもんが値上がりしてきて、何とかしてもらいてえよ」
「消費税も8%になったしな」
「反対に企業の税金は安くなるというじゃねえか。
 俺には分からねえなあ」
海岸近くには水溜りが多い。
地盤沈下で、潮が満ちると道路まで海水が押し寄せるようだった。


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by nkmrnkmr | 2015-01-09 12:18 | オプション小説
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